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805 表徴の帝国 ロラン・バルト

805 表徴の帝国 ロラン・バルト_c0195327_16485276.jpg
磯崎新は1975年に『陰翳礼讃』と『表徴の帝国』は対極にあるとした。

谷崎は「絶対的な《闇》の中から、事物が明減しながら出現し、ついには吸い込まれるように還元されていく過程だけを見つめる視線」。
バルトは「空虚な中心へ向かいながら、それを解く鍵がばらばらな表徴の中にしかない、というまどろっこしさを認めようとする視線」であるという。

そして「私は、この闇から離脱を積極的に認めようと考えている。闇は住宅作品をつくりはじめるに当ってその出発点を確認するための決定的な概念であった。しかし、それをそのまま容認するには、私たちの置かれている状況はあまりにも遠くに動いていたことも同時に認識すべきであろう。そしてその闇の代わりに、空虚という見定めにくい、とりとめのない概念の浸透にやはり注目することになろう」という。

ロラン・バルト
フランスの批評家。1915年-1980年。ソシュール、サルトルの影響を受け、エクリチュールについて独自の思想を築く。1953年、『零度のエクリチュール』を発表、文学と社会の関係を鋭く分析。フランスの文化使節の一員として日本を訪れ、そのときの印象を記号論の立場から同書にまとめ、1970年、日本について独自の分析をした『表徴の帝国』を発表。

用語
表徴 signe(シーニュ) ソシュールの哲学用語。記号。徴候。指し示すもの、しめし。他と区別するしるし。キリスト教徒が手で十字架を切るしるし。病気の基本的なしるし。
解説から
表徴するものと表徴されるものとの統一体を表徴とみる。

「こちらへおいで、お菓子あげるから」と手招きをする。
表徴は、手招きである。
表徴するもの(シニフィアン)は、「こちらへおいで」である。
表徴されるもの(シニフィエ)は、「親愛」である。

表現体 ecriture(エクリチュール) パロール(話し言葉)に対するエクリチュール(書き言葉)

ロラン・バルトの考えている表現体とは、表徴されるものを持たない表徴、無化されている表徴がつくる表現体にほかならない。そういう表現体こそ、かれによれば、純粋な表現体なのであり、それをかれは、日本の中に、日本のなかにおいてのみ、発見したのである。

その純粋な表現体の厳しい言い方は、枯山水庭園に感じる《どんな花も。どんな足跡もない。人間はどこにいるのか? 岩石の搬入のなかに、箒の掃き目のなかに、つまり表現体の働きのなかに》。
純粋な表現体の典型を悟りの中に見る。

《つまり表現体とは、一種の「悟り」なのである。そして「悟り」とは、認識と主体を激動させる強烈な地震なのである‥‥。「悟り」は「言葉の無化」作用をおこなう。そしてこの言葉の「無化」こそが表現体をうむ。

テキスト text 文章 文芸批評、人文科学・社会科学などの文脈では分析や解釈の対象となる文芸作品、文書などを指す。「テクスト」と表記されることが多い。

表徴の帝国 L’EMPIRE DES SIGNES
西洋の精神世界は、表徴を意味で満たそうとするが、日本では意味の欠如、あるいは意味で満たすことを拒否する表徴が存在する。
そして、そのような表徴は、意味から切り離されることにより、意味から解放された日本文化の自由さは、独自の輝きを持っている。
かなた
表現体とは、一種の悟りで、認識と主体を激動される強烈な地震。悟りは、言葉の無化作用を行う。
水と破片
食事をどこから食べ始めというその順序は、どんな作法によっても決まっていない。

日本料理は絵画における色彩ではなく筆致(タッチ)である。
煮た米(※白米)は断片で、緊密でつぶつぶした白さは、パンの白さとは違い、もろい白さのタッチをおく。

汁は、料理に明澄な筆致(タッチ)をあたえる。

箸は、食べものを皿から口へと運ぶ以外に、おびただしい機能を持っている(単に口へ運ぶだけなら、箸はいちばん不適合である。そのためになら、指やフォークが機能的である)。
箸は、食べものを指し、その断片を示し、人差し指と同じ選択動作を行う。
箸は、断片をそっと「つまむ」という機能。食べものをほぐす、くずす機能。
いちばん美しい運ぶ機能。
中心のない食物
どの日本料理にも中心がない。フランスでは、食事に順序があたえ、料理を取り組み、ナプキンをかけたりする儀式によって料理の中心がうまれる。
日本料理は、調理時間と食べる時間とを、一瞬のうちに結びつける。

すき焼きは、作るにも食するにも終わることのない料理、その料理作りの技術的な難しさのためにではなく、人が煮るにつけて食されることの本質として、したがって繰りかえされることを本質とするすき焼きには、食べはじめの合図(材料の乗った皿が運ばれた)しかない。
食べ始めてしまうと、これという明確な瞬間も場所も、もはや存在しない。
すき焼きは、とだえることのないテキストのように、中心をもたないものとなる。
すきま
てんぷらにあっては、フランス人が昔からフライに与えてきた意味感、重さの感覚が取り払われている。
西洋の油または脂肪で炒めた料理とを特徴づけている矛盾、これを天ぷらは消失させる。つまり、加熱することなしに焼くということを天ぷらは可能ならしめている。脂っこい物のあの冷えた焼け焦げは、ここになく、かわりに、いっさいの揚げ物に拒まれていると思える物質、すがすがしさが発ちあらわれる。
一瞬にして、できあがり、一つ一つに分けられ、個々に名前がつけられ、しかもすきまだらけのものになっている。そのころもはひどく軽やかであり、そのために象徴的存在になっている。
中心-都市 空虚の中心
東京は、いかにも都市の中心をもっている。たが、その中心は空虚である。
皇居は禁域で森と濠によって防禦された神聖なる《無》をかくしている。
偶発事
西洋の芸術は印象を描写に変形する。俳句は決して描写しない。
西洋の表現様式の描写は、その精神的対象物を瞑想のなかにもっている。すなわち、神に帰属する形体の整然とした財産目録、福音書物語の挿話の数々である。
逆に、主体と神のない形而上学にのっとってつくられた俳句が対応するものは、仏教の無、禅の悟りであって、その無も悟りも、神がその場に啓示させることでは決してなく、実体としてではなく、偶発事として事物を把握する働き、冒険の輝きのなさに犯された言語のこれまでの外縁を持つ主体を打ちやぶること、すなわち、《事実を前にして覚醒》にほかならない。

西洋においては、鏡は本来ナルシス的なものである。だが東洋においては、鏡は空虚であるように見える。
書かれた顔
舞台の顔は描かれていない(化粧されていない)。書かれている(歌舞伎の隈取り)。

歌舞伎の俳優は、女形の顔をつくって、女性を演じているのではない、女性をコピーしているのではない、ただ単に女性を表徴するのである。
全学連
全学連の暴力は無媒介に表徴である。行動それ自体がスローガン「全学連は闘うぞ!」。
※最後に写真との関係
表徴とは裂け目である。そのあいだから覗いているものは、ほかならぬもう一つの表徴の顔である。


今日の草花は、家紋によく用いられる酢漿草(かたばみ)。
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by million-lion | 2009-05-06 16:59 | 8 芸・美・文化・歳時記


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