802 陰翳礼讃 谷崎潤一郎

c0195327_1795469.jpg昭和8年発表。現在は中公文庫から出版の本文は45ページの内容です。
世界的に日本文化を知る図書として有名です。
かの磯崎新氏は、20代のまだ建築に迷いがあった頃、この本と出合い建築の確信を持つきっかけになった、と発言されていました。

なお、文中の「わらんじや」という有名な料理屋は、このブログを作成するまで京都の七条通りにある「わらじや」と理解していましたが、文中では「わらんじや」とあり、詳しく調べると「わらんじや」は芥川龍之介の関する話に登場します。そこでは、東山公園内(円山公園?) 、とあり掲載する写真の「わらじや」は別のようです。
折角なので付けておきます。ちなみにこちらは400年の歴史だそうです。
前をよく通りますがまだ利用する機会に恵まれていません。


座敷の写真は、京都の島原にある揚屋建築の唯一の遺構「角屋」です。平成10年から拝観可能になりました。
現代人には、谷崎潤一郎の陰翳礼讃を体現することは難しいことですが、私はここで谷崎潤一郎の陰翳礼讃を実感できたように思いました。
余談ですが、この「角屋」は幕末に新撰組がよく利用し、初代局長芹沢鴨がここでの宴の深夜に暗殺された命日に偶然の見学でした。
念のために、この写真は9月の昼過ぎです。
c0195327_1794185.jpg


本文より

漆器
「わらんじや」の座敷と云うのは四畳半ぐらいの小じんまりした茶席であって、床柱や天井なども黒光りに光っているから、行燈式の電燈でも勿論暗い感じがする。が、それを一層暗い燭台に改めて、その穂のゆらゆらとまたたゝく蔭にある膳や椀を視詰めていると、それらの塗り物の沼のような深さと厚みとを持ったつやが、全く今までとは違った魅力を帯び出して来るのを発見する。
羊羹
人はあの冷たく滑かなものを口中にふくむ時、あたかも室内の暗黒が一箇の甘い塊になって舌の先で融けるのを感じ、ほんとうはそう旨くない羊羹でも、味に異様な深みが添わるように思う。
建築
美と云うものは常に生活の実際から発達するもので、暗い部屋に住むことを餘儀なくされたわれわれの先祖は、いつしか陰翳のうちに美を発見し、やがては美の目的に添うように陰翳を利用するに至った。 中略 われわれは、それでなくても太陽の光線の這入りにくい座敷の外側へ、土庇を出したり縁側を附けたりして一層日光を遠のける。そして室内へは、庭からの反射が障子を透してほの明るく忍び込むようにする。われわれの座敷の美の要素は、この間接の鈍い光線に外ならない。われわれは、この力のない、わびしい、果敢ない光線が、しんみり落ち着いて座敷の壁へ沁み込むように、わざと調子の弱い色の砂壁を塗る。
結び
私は、われわれが既に失いつゝある陰翳の世界を、せめて文学の領域へでも呼び返してみたい。文学という殿堂の檐(のき)を深くし、壁を暗くし、見え過ぎるものを闇に押し込め、無用の室内装飾を剥ぎ取ってみたい。それも軒並みとは云わない、一軒ぐらいそう云う家があってもよかろう。まあどう云う工合になるか、試しに電燈を消してみることだ。

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by MILLION-lion | 2009-02-05 17:19 | 8 芸・美・文化・歳時記


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